生き物の死にざまーはかない命の物語―稲垣栄作著 ② 人間編
X その生存競争は熾烈を極める
一斉にスタートをきった彼らは長い道のりをゴールを目指して泳ぎ続ける
勝者は1人、それ以外はすべて敗者である この物語の主人公は精子である
体長わずか0.06ミリメートル 人間の場合1回で放出される精子は2-3億個といわれる
ゴールで待ち受ける卵子は1個 勝者になるのは2-3億分の1の確率である
行く手には様々な障害が待ち受けている
膣内は病原菌の侵入を防ぐために、粘液を出しており、また侵入した病原菌を殺すために粘液は酸性に保たれている 酸の中では精子はうまく泳げず、多くの精子はここで動けなくなってしまう
この障害にたった1個の精子の泳力では難しく、群れをつくりながら泳ぎ、協力しながら道をきりひらき、子宮内へと侵入する。中には必死に泳ぐ他の精子の上に乗っかってずるをする精子もいる
途中でレースを参加するのをあきらめて他の精子の邪魔をする者もいる
精子には意思もないのになぜか人間臭い・・・なぜ
無事に子宮内に侵入できる精子はわずか3000個。最初の障害を突破できるのは10万個に1個の精子だけである。次の難関が・・何しろ広い子宮の中から卵管の小さな入り口を見つけ出さねばならない
しかも彼らをはばむものが現れる。異物と認識した白血球が一斉に襲い掛かる
それを逃げ切って卵管の入り口を見つけた先にも試練がある
強運が試される 卵管の先は行く手が二つに分かれ、どちらか一方だけに卵子が存在する
ここに到達できる精子は100個ほどになっている。いよいよ最後の戦いである
卵子の外側には固い殻で守られている。精子は酵素をだしてこの殻を破っていく
この殻を破った精子のみが卵子に侵入して勝者となる
すると突然 卵子は受精膜というバリアを瞬時にはり、まわりについていた他の精子の侵入を阻む
勝者が選ばれたのである 精子を受け入れた卵子は細胞分裂を開始して、ゆっくり回転をはじめ、子宮に向かっていく。愛のダンスを踊っているように見える 。精子が動けるのは48時間から72時間、やがて力つきて動けなくなる。
このような過酷なレースに勝ち抜く自信はあるだろうか・・しかしあなたはこのレースに勝ち抜いた強運な勝者である。そしてあなたはこの世に生を受けた。これ以上に何を望むものがあろうか・・・
ヒト以外の生き物はみな「今」を生きている 人間
人間はまだ見ぬ死を怖がる生き物である
もちろんすべての生物が死にたくないと思っている。危険が近づけば必死に逃げるし、どんな困難な環境でも
必死に生き抜こうとする。しかしいつくるともわからない死を恐れるのは人間だけである
鳥も動物も死の影を恐れることがない
哺乳類は状況を判断して行動するために、脳を発達させた
肉食獣なら獲物の逃げ道を予測して先回りする、草食獣なら追手の動きを予測して裏をかくことができる
犬はお座りしたら餌がもらえるという未来が予測できるから、お座りして待つことができる
未来を予測するため過去の情報も少しは活用する
人間はこの先を予測するという能力を高度に発展させた。10年先のことも考えて行動することもできる
まだ見ぬ世界を予測する「想像力」という力を手に入れた
こんな想像力(未来のことだけでなく何億年もの昔に思いを馳せる事さえできる、みることのない宇宙の果てのことさえ)を持つ生物はほかにいない。人類はこの想像力で文明や科学を発達させてきた
しかし想像力を手に入れたことで問題が・・
すべての生物は未来のことがわからないので今を生きている
人間は未来を想像することができるので、あれこれ想像した挙句、来るかどうかもわからない将来のために、今を我慢して「今」を生きなくなった
自分が死ぬという未来も想像するようになり、挙句の果てには「人は死んだらどうなるのか?」「人はなんのためにうまれてきたのか?」とか考えだす
そして「生きるのがつらい」とか「死んで楽になりたい」とか、とても生き物とは思えないことを言い始める
すべての生き物は「今」を生きている。大切なのは「今」である。今、命があるのだから、その命を生きればいい。ただすれだけのことである
想像することは、悪いことばかりではない。未来を想像できる。未来を想像してわくわくしたり、生きる力が湧いてくることもある
未来を想像することで「今」を大切に生きることもできるはずだ。古人は「希望」と名付けた
希望を持つ唯一の生き物であることも確かである
想像してみよう・・私たちはどのように死ぬのであろう その時どんな気持ちであろうか
充実した人生であろうか、後悔の人生であろうか・・
あなたの死にざまはどんなものであろうか・・ 作者はこの言葉でこの本を閉じている
2023-09-18 19:09:37
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