認知症疾患における漢方治療 川崎医科大学認知症学教授 和田健二先生
認知症の薬物療法の手順
1認知症の診断
2投薬されている内服薬の確認
3薬物療法の必要性の判断
4服薬原酒が可能な環境の確認・整備
5投薬に関する説明と同意
↓ ↓
疾患特異的治療 BPSDに対する治療 合併症治療
神経症状 老年症候群 身体合併症
定量的な評価と見直し 有害事象の有無の確認
認知症の症状 A B C
A 日常生活機能 ADL
B 認知症の行動・心理症状(BPSD)
C 認知機能 (Cognition)
D:介護負担感(Distress)
Cさまざまな認知機能の低下
記憶 エピソード記憶
見当識(状況把握) 時間→場所→人
視空間機能 物の位置、距離、方向 風景
遂行機能 段取り
言語(コミュニケーション)話す 聞く 理解
覚醒・注意
A 日常生活の変化 手段的日常生活活動(I-ADL)
電話 買い物 服薬管理 家事 食事の準備 移送の形式 財産の取り扱い 洗濯
DSM-5
軽度認知障害
毎日の活動において、認知欠損が自立を阻害しない
すなわち請求書を支払う、内服薬を管理するなどの複雑な手段的日常生活動作は保たれるが・・
以前より大きな努力、代償的方略、または工夫が必要であるかもしれない
認知症
毎日の活動において、認知欠損が自立を阻害する
すなわち請求書を支払う、内服薬を管理するなどの複雑な手段的日常生活動作に援助が必要となる
本人をよく知る情報提供者に聴く
認知機能低下による生活の変化
MMSEスコアー
25 金銭の取り扱いと通信
服用
外出 軽症
食事と家事
電話 中等症
食事の用意
着脱衣、着替え
衛生 重症
接触
排泄
0
B 認知症の行動・心理症状(BPSD)
活動性亢進 焦燥性興奮 易刺激性 脱抑制 異常行動
感情障害 うつ 不安
精神病症状 幻覚 妄想(物とられ妄想:AD) 幻聴(レビー小体型認知症)
アパシー 自発性や意欲の低下 情緒の欠如 不活発 周囲への興味の欠如
アルツハイマー認知症およびMCIにおけるBPSDの頻度と介護の負担
MCIや軽症から出現
焦燥性興奮 抑うつ アパシー 夜間異常行動 食欲食行動異常
重度になれば介護負担度の増加 抑うつ アパシー 夜間異常行動 食欲食行動異常↑↑
認知症の治療目標
認知機能の改善と生活の質の向上を目的
薬物治療と非薬物治療を組み合わせて行う
認知症者への介入 認知機能訓練 認知刺激 経皮的電気刺激療法 運動療法 音楽療法 回想法
ADL訓練 マッサージ、レクレーション 光療法 多感覚的刺激療法 支持的精神療法
バリデーション療法 鍼治療 経皮頭蓋磁気刺激療法 筋弛緩法など
介護者への介入 心理教育 スキル訓練 介護サポート ケースマネジメント
レスパイトケア 介護者とのセルフケア 認知行動療法など
B BPSDにおける漢方治療
焦燥 攻撃性 興奮 抑肝散
不安 加味帰脾湯
アパシー・食思不振 人参養栄湯
抑肝散
怒りやすい イライラ 不眠 神経過敏 興奮 眼瞼けいれん 手足の震え 腹力中等度 腹直筋緊張
アルツハイマー病のBPSDに対する抑肝散の効果
多施設共同無作為化二重盲検プラセボ対照比較試験
147名 55-84才 NPIスコアー4点以上
抑肝散7.5g/日 75名 プラセボ 70名
結果のみ
MMSE<20 74才未満 攻撃性/興奮 有意に改善
攻撃性や興奮が中等症や重度 有意に改善
幻覚を伴う患者 有意に改善
副作用 重大でない有害事象 4例 低カリウム血症 1例高血圧
重大な副作用 心不全と胆石症 因果関係否定
レビー小体型認知症
認知機能の変動 はっきりしているときとぼーとしているときがある
幻視 実際そこにいない動物、虫、人が見える 誰かがいるような気配
パーキンソンニズム 体を動かしにくい 手足が震える 歩きづらい 転倒が多い
レム睡眠行動異常 睡眠時に大きな声の寝言や異常行動がある 悪夢
自律神経症状 起立性低血圧 便秘 排尿障害 発汗障害
その他 嗅覚障害 アパシー 宇津気分 日中過眠 長期または再発性せん妄
誤認妄想
レビー小体型認知症のBPSDに対する抑肝散の効果
55-90才未満 zarit介護負担尺度の有意な改善が見られた
抑肝散の薬理作用
セロトニン神経系への作用
アルツハイマー型認知症の患者では、脳内のセロトニン濃度が関係することで攻撃性の上昇が起きていると言われており、抑肝散はセロトニン受容体を刺激することで攻撃性を抑制する働きを発揮しています。
グルタミン酸神経系への作用
認知症の患者には神経細胞の脱落がみられ、その原因の一つとしてグルタミン酸が関与していると考えられています。グルタミン酸が多くなると神経に傷害を起こしてしまうため、過度に上昇しないように抑肝散が調節する作用を持っているのです。さらに、グルタミン酸が結合する受容体に対しても保護するように働くことから、二つの効果を持ってグルタミン酸に影響を与えています。グルタミン酸への作用は、抑肝散の中でも特に甘草によって発揮されているとされています。
抑肝散加陳皮半夏 使い分け 抑肝散より体力が低下し、症状が慢性化して消化器症状がみられる場合
加味帰脾湯
不眠症 精神不安 神経症 貧血など
加味帰脾湯によるAD患者のBPSDおよび感情表現に関する効果
男性18例 女性45例 平均年齢83.3才
オープン研究 28日間処方 7.5g/日
焦燥性興奮 気分障害 不安 脱抑制 易刺激性が有意改善
人参養栄湯
フレイルを伴うAD患者の食欲不振に対する人参養栄湯の効果
20症例 過去6カ月で2-3kg体重減少のAD
人参養栄湯9g/日
食欲不振スコアー有意に改善 12週
有意に食事量増加→フレイルの改善
嚥下障害の対応(誤嚥性肺炎の予防を含む)はどのように行うか
誤嚥性肺炎の発症予防にはACE阻害剤、アマンタジン シロスタゾール
カプサイシン、口腔ケア、嚥下リハ、顎引き嚥下、食後1時間の座位保持
インフルエンザ 肺炎球菌ワクチンなどが有効である
進行期の認知症では経皮的内視鏡胃瘻造設術(PEG)が誤嚥性肺炎の予防や、ADLおよび生命予後の改善に有効
であるというデーターはない
ツムラ半夏厚朴湯
認知症 半夏厚朴湯
大脳基底核× ↓
ドパミン減少 ドパミン増加
迷走神経・舌咽神経の近く低下 サブスタンスP増加
嚥下反射・咳反射低下による 嚥下反射改善 咳反射改善
不顕性誤嚥
半夏厚朴湯の咳反射の改善 偽遠征肺炎への影響 有意に改善




2023-09-21 06:25:56
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