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Web講演会  9月22日

Web講演会  9月22日

COVID-19パンデミック下でのインフルエンザ診療   倉敷中央病院呼吸器内科部長 石田直先生
一部のみ列挙
新型コロナウイルスと季節性インフルエンザの重症化率等について
               重症化率             参考 致死率
                60歳未満  60歳以上    60歳未満  60歳以上 

新型コロナオミクロン流行期   0.03%    2.49%     001%     1.9%
新型コロナ デルタ流行期    0.56%    5.0%     0.08%     2.5%

季節性インフルエンザ      0.03%    0.79%     0.01%     0.55%
SARS-CoV-2と同時感染 Lancet 2022年
呼吸器管理    他の要因を調整していないデータ 調整したデーター

アデノウィルス  1.22倍             0.64倍
インフルエンザ  1.68倍             4.14倍
Rsウイルス    1.05倍             0.78倍
入院率      他の要因を調整していないデータ 調整したデーター
アデノウィルス  1.60倍             1.53倍
インフルエンザ  1.49倍             2.35倍
Rsウイルス    1.20倍             0.60倍
インフルエンザは自然経過でよくなる self-limitedな疾患である
一部の患者に重症化のリスクがあり、急性脳症や2次性肺炎などを発症し、生命の危機がみられる場合がある
2018年 インフルエンザ臨床ガイドラインより
5才未満(とりわけ2才未満)の幼児
65才以上の高齢者

慢性尾肺疾患(気管支喘息を含む)心血管疾患、腎疾患、肝疾患、血液疾患、代謝性疾患(糖尿病を含む)
神経疾患(脳障害、脊髄障害、末梢神経障害、筋障害、てんかん、脳卒中、精神遅滞、中等症度以上の発達異常、筋委縮、脊髄外傷を含む)がある患者
免疫抑制状態の患者(免疫抑制剤治療を受けているあるいはHIV感染を含む)
妊婦および出産後2週以内の産褥婦
アスピリンまたはサリチル酸を含む薬物治療を受け、ライ症候群のリスクのある18歳以下の患者
アメリカンインデアン/アラスカ原住民
BMI40以上の肥満者
ナーシングホーム等の長期療養施設入居者

インフルエンザの合併症や関連疾患がおこる理由
小児では、記憶免疫がまだ備わっていない初感染時などには、まれに過剰な自然免疫応答によるサイトカインストームから脳症に至り、重症化することがある
高齢者では、ウイルスの排除が速やかに行われないことにより、呼吸器上皮細胞が傷つき、細菌性肺炎などの
インフルエンザ関連合併症を引き起こすことがある

サイトカインストーム   ウイルス防御が速やかに行われない
   ↓                ↓          
   脳症              肺炎

インフルエンザウイルスが2次性細菌性肺炎を引き起こすメカニズム
インフルエンザに感染する
   ↓
ウイルス感染に伴い、気道・宿主に生じる変化
1気管・気管支の物理的バリア機能が破壊される
2気管・気管支の線毛の機能が低下する
3ノイラミダーゼの働きでレセプターが暴露され、肺炎球菌の付着が増加する 

*ノイラミニダーゼ(Neuraminidase)はシアリダーゼとしても知られ,ポリサッカライド鎖の末端にあるシアル酸残基を加水分解する酵素です。主に細菌やウイルスのような微生物で発現しています。
ノイラミニダーゼにより開裂したシアル酸残基は,インフルエンザウイルスによる感染において,粘膜内壁への侵入,標的細胞への浸潤,感染細胞からの子孫ウイルスの放出および自己凝集の抑制など,いくつかの役割を果たしていると考えられています。そのため,ノイラミニダーゼ阻害剤はインフルエンザ治療薬(タミフル)として使用されている
4宿主の免疫細胞が機能不全を起こす
5宿主の免疫系に調節異常が生じる

    ↓
肺炎球菌や黄色ブドウ球菌による2次感染が起こる
    ↓
細菌性肺炎、敗血症、ショックなどを引き起こす

*余談 インフルエンザ脳症について
15年以上前 私が研究会を積極的に聴きに行くきっかけになった講演会を思い出します。
徳島大学疾患酵素学研究センターの木戸 博先生の講演会はすばらしくとても興奮したことを覚えています
簡単に昔のノートに走り書きした内容を参考に・・一部分のみ抜粋
インフルエンザ脳症は、乳幼児がインフルエンザに感染して39〜40℃の高熱が続いた後、突然幻覚、意識障害などの中枢神経障害と重篤な脳浮腫を伴って発症する致死性の高い疾患で、後遺症も多く報告されている。発症は日本人の小児で多く報告され、コーカサス人種では少ないことから、数年前までは日本人の遺伝的背景が発症に深く関わっていると推定されてきた。「インフルエンザ脳症の解明に取り組み始めたころ、インフルエンザ脳症で亡くなったある少女の検体が届き、解明に役立つならばと検体を提供していただいたことが解明の突破口を開いてくれた」と熱く語られ、
エネルギー代謝に関連する様々な酵素活性を調べたところ、40度以上の発熱の前後で、活性に大きな変化がみられる酵素CPT-IIを見つけられました。
40度以上の発熱後の検体では、CPT-IIの先天性酵素欠損症に。発熱前の検体では、CPT-IIの酵素活性は軽度の低下を認めたものの先天性欠損症レベルにはなかった。
CPT-IIには熱に不安定な表現型があり、遺伝子多型の解析を進めていくと、インフルエンザ脳症の病態の中心像は血管膜の透過性亢進による脳浮腫と脳圧の異常亢進であること、エネルギー源として脂肪酸を優位に利用する血管内皮細胞で乳幼児期に障害が現われやすいこと、さらに脂肪酸代謝酵素が熱に不安定な表現型になっている遺伝子多型(熱不安定性表現型)がある患者に重症化例が集中していることを明らかになった。

なぜCPT-IIの酵素活性が低下することが脳症発症の引き金となるのか

インフルエンザに感染すると、サイトカインの産生が高まるとともにミトコンドリアのATP産生が影響を受け、もともとある糖代謝と脂肪酸代謝の2経路のうち、後者の脂肪酸代謝の依存度が増す。この状態で、高熱の影響で脂肪代謝酵素であるCPT-IIの活性が落ちていくと、ATP産生の2経路がともに回らなくなる。結局、細胞内ATPが低下してエネルギー代謝障害の状態になってしまう。この影響は、エネルギー代謝の最も盛んな神経細胞、心筋細胞、血管内皮細胞で出始めるが、血管内皮細胞の中でもミトコンドリアが特に多い脳の血管内皮細胞で敏感に影響が現れる。 エネルギー代謝障害になると、細胞間をつないでいるタイトジャンクションの崩壊を招き、血管膜の透過性亢進による脳浮腫と脳圧の異常亢進へと発展していく
そのため直ちに取るべき対策は解熱
目の前の患児がCPT-IIの遺伝子多型かどうかは、日常診療での把握はむずかしいなぜなら熱不安定性表現型の患児は、日常生活においては異常がみられない。
直ちに取るべき対応は、解熱剤の使用、早急に熱を下げるべき。通常のCPT-IIの細胞内半減期は18時間であるのに対して、熱不安定性表現型CPT-IIの半減期は6時間に短くなる。細胞は弱い酵素を補うために6時間で半分の酵素を入れ替えて定常状態を保っている。この酵素に、40~41度のストレスが数時間変わっただけで、急速に酵素は失活することが明らかになり、遺伝子多型の種類、組み合わせなどで、失活の速度にばらつきはあるものの、1~2時間で急速に落ちていくことを考えると、40~41度の高熱になったら直ちに熱を下げる処置をとるべきである。インフルエンザ感染ストレスは、エネルギー産生系の依存度を糖代謝から脂肪酸代謝に切り替えるが、この変化に対応できないCPTⅡの熱不安定性遺伝子多型患児では、そのエネルギークライシスとして、脳の血管内皮細胞で強い症状が現われてしまう。脳症を血管内皮細胞のエネルギークライシスの結果ととらえると、治療のターゲットが見えてくる。
*メフェナム酸・アスピリン・ジクロフェナクなどの解熱剤は脂肪酸のβ酸化を阻害するので×

インフルエンザ感染の重症化は、「インフルエンザ
サイトカインプロテアーゼサイクル」によって引き起こされる。
特に、このサイクルが回転しやすい臓器が、肺、血管内皮、脳で、中でも血管内皮細胞でこのサイクルが回転すると、基礎疾患として血管内皮細胞に障害のある患者、エネルギー代謝に弱点を持つため、血管内皮細胞障害の現れやすいヒトが重症化する。
インフルエンザ感染に対する生体応答:最も早い生体応答が、炎症性サイトカインのTNF-α、IL-6、IL-1β等の誘導で、感染後1
2日をピークに増加して、続いて起こる様々な生体反応の引き金を引く。その一つが生体防御系(自然免疫系、獲得免疫系)の発動で、感染初期の細胞性免疫系と感染4日以後の抗体産生の誘導に代表され、これらの生体応答によってウイルスは体外に排除される。
 
一方、これらのサイトカインは、生体防御系の発動以外に、体内蛋白質分解酵素のtrypsinとmatrix metalloprotease-9(MMP-9)の発現誘導を、全身の臓器と細胞で引き起こしていることが明らかに。蛋白質分解酵素の遺伝子を持たないインフルエンザウイルスにとって、trypsinはウイルスの感染と増殖に不可欠な宿主因子で、ウイルス膜蛋白質のヘマグルチニンを分解して、膜融合活性を導き出す。ウイルス感染によって、蛋白質分解酵素のtrypsinとMMP-9が全身の血管内皮細胞や臓器で増加すると、血管内皮の異常な透過性亢進、ウイルスの臓器内入と増殖の準備状態が整うことになり、ウイルス感染でサイトカインが誘導され、次いでサイトカインでプロテアーゼが誘導され、プロテアーゼがウイルス増殖を促進するサイクルが回転して、血管内皮細胞の透過性の亢進から多臓器不全に発展する、われわれの提唱している説である。これらハイリスク患者の発症基盤が、遺伝子多型解析と血管内皮細胞の機能解析研究から解明されつつある。 流れるようなお話と熱意が伝わる素晴らしい講演ー印象深い研究会でした。終わった後先生のもとに行き必死で質問したことを思い出します。
日本呼吸器学会インフルエンザ・インターネットサーベイ
協力医療施設にてンフルエンザと診断され、肺炎もしくは入委員となった患者症例(16歳以上の患者)対象
2015年から開始 今年9年目のシーズンに
2015-2019年シーズンにおける入院患者の年令分布

80代  >70代 > 90代  >60代      30-40代で入院が比較的多いシーズンもあった
50人程度 40人程度 20人程度 10-15人程度  5-8人程度

重症化を病態(重複を含む)
市中肺炎      409(44.3%)
医療介護関連肺炎  94(10.2%)
気管支喘息発作   38(4.1%)

COPD急性増悪    19(2.1%)
間質性肺炎急性増悪  6(0.6%)
気管支炎       4(0.4%)
心不全        22(2.4%)
尿路感染症      5
急性腎不全      5
横紋筋融解症     9
脳症         6
全身状態不良     252(27.3%)
社会的入院      39(4.2%)
登録患者の基礎疾患(2015-2019年シーズン)
基礎疾患なし   58人
慢性呼吸器感染  62人
慢性心疾患    42人
膠原病      18人
代謝疾患     42人
悪性腫瘍     38人
妊娠       1人
肥満(BMI40以上)1人
脳血管疾患   15人
慢性腎不全   14人
長期療養施設  16人
免疫抑制薬投与 18人
91人基礎疾患がなしでは肺炎球菌肺炎やインフルエンザウイルス肺炎が多かった
患者が重症化するかどうかを病初期に判断することは困難
ワクチンをうつ しかし効果がシーズンによりばらつく35-65%
インフルエンザ治療の基本
症状緩和 罹病期間の短縮 合併症の防止 周囲への伝播抑制
     オセルタミビル  プラセボ
下気道感染 65/1544    110/1263   0.56  44%の減少
入院    9/1329     22/1045   0.37  63%の減少

ノイラミニダーゼ阻害剤薬剤開始日別の生存率
早ければ早いほど生存率は上がる
2009年パンデミック時の新型インフルエンザによる死亡率の各国の比較
                              人口10万対死亡率   死亡者数
米国      3.96        12000

カナダ     1.32        429
メキシコ    1.05        1111
オーストラリア  0.93        191
英国       0.76        457
フランス     0.50        309
ニュージーランド 0.48       20
日本       0.15       198 
妊婦新型インフルエンザ感染リスクと抗インフルエンザ薬使用頻度、ワクチン接触後の国際比較
            日本   アメリカ  カナダ オーストラリア(ニュージーランド)
母体死亡(人)     0      56    4     7
入院患者        0.5-1倍   5倍   7倍    7.4倍
抗ウイルス薬   
 使用率        95%     85%         81%
2日以内の使用率    88%     43%      
ワクチン接種      67%     13%

インフルエンザの治療については、原則として早期診断早期治療が原則
我が国では抗ウイルス薬が、症状緩和目的で軽症の外来から投与され、その結果として重症化や入院の
必要性の抑制につながっていた
ハイリスク患者には発症後48時間を超えても投与を検討する
発症早期に重症化するかどうかの判断は困難であり、もし医師の判断により抗ウイルス薬の投与
を行う場合でも、症状の増悪があればすぐに受診するように指導することが必要

2023-09-23 07:45:38

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