改善しない肩関節周囲炎、次の一手は?早石病院疼痛医療センター長 三木健司先生
肩関節の挙上障害、痛み等で整形外科で肩関節周囲炎との診断で理学療法中の60代の患者です
約2カ月経過しましたが、症状の改善が思わしくないです。診断の再診、治療法の変更につき、ご教示お願いします
肩関節周囲炎とは
確立された定義はないが、肩関節に疼痛と可動域制限があるが、起因となる明らかな疾患がない病態を総称したもの
肩関節周囲炎は五十肩、癒着性肩関節包炎、凍結肩とほぼ同意語として使われる
海外では凍結肩について、自動、多動運動ともに機能的に制限され、単純X線にで骨萎縮像および石灰化以外に
異常を認めない疾患としているのもあります
病期と症状
病期 症状
急性期(疼痛性痙縮期) 強い疼痛があり、夜間痛が強い 反射性筋性硬直 睡眠障害、精神的に不安定
慢性期(拘縮期) 疼痛は徐々に改善、寡動制限が目立つ、可動範囲最終域で疼痛
回復期(寛解期) 可動域制限は改善、半数は軽い痛みやこわばり
(再発の場合、腱断裂の可能性を考慮)
治療
急性期 除痛が主目的。慢性化させないように注意。
運動療法 拘縮を最小限にとどめるために、振り子運動など緩和なものを実施します。ストレッチは伸張反射を招かないよ
うにゆっくり持続的に 疼痛が強い時は避けます
薬物療法 NSAIDs 超急性期にはステロイド注入
慢性期 拘縮の除去が主目的 生活指導と運動療法が治療の中心となります
運動療法 振り子運動、滑車運動、ストレッチ体操により肩関節、肩甲胸部の可動性の改善をはかります
振り子運動ののち、挙上、外旋、内旋を行うよう指導します
他動的外転は疼痛を悪化させることがあるので注意。屈曲および下垂位での外旋を改善させてから行うよう指
示します
難治性(3か月以上)
可動域が不良な場合は、局所麻酔(リドカイン)投与下でのパンピング療法が効果期待できます
パンピング療法
局所麻酔下で、生理食塩水を用いて関節腔を拡大してからステロイドを注入する方法。患者の苦痛が少ない
外来で容易に行える。関節造影と同時に行える。合併症の危険が少ないなどが特徴
薬物療法 弱オピオイド、NSAIDs含有貼付剤
エコー下腕神経叢ブロック、肩甲上神経ブロック その後可動域訓練、マニプレーション
*サイレント・マニピュレーション
特にきっかけがなく肩に痛みが起こり、徐々に肩の動く範囲が制限されていきます。また寝ている時に痛む(寝返りで痛む、痛い方の肩を下にして眠れない)のも特徴です。原因としては、肩関節の関節包という部分に炎症が起き、縮んでしまうと考えられています。肩関節への注射やリハビリテーションによる治療が行われますが、動きの制限が強い場合は中々改善しな
いこともおおい病気です。近年、この五十肩の新しい治療法として「サイレント・マニピュレーション」という方法が開発されました。これは肩に麻酔を行って動かすことにより、縮んでしまった関節包を剥がし、肩の動きを劇的に改善する治療法です。動きの制限が強い方や、病気の期間の長い方を対象にこの治療法をおこなっています
頸部への麻酔 エコーを用いて頸部の神経に麻酔
これにより肩を動かした際の痛みが無くなります。麻酔がかかった腕は肩を動かしたり、肘を曲げたりする事が出来なくなりますが、7~10時間で元に戻ります。 固まった肩関節を動かす 全方向に動かして、縮んだ関節包を剝がしていく。この際に関節包がはがれるプチプチとい音はなるが痛みはない
最後に肩関節内に注射を行います。三角巾を着用する(麻酔がきれる7-8時間は)動くようになれば三角巾は外していい
翌日再診&リハビリテーション治療開始 リハビリテーションによる治療を開始し、積極的に肩を動かすようにします
*腱板断裂と五十肩の鑑別
腱板断裂では「痛いが何とか腕が上がる」、五十肩では痛いしどうやっても腕が上がらないことが多いという違いがある
腱板断裂は、インナーマッスルが腕の骨からはがれてしまう病気。インナーマッスルの力が伝わらなくなり痛みの原因となるが、表層にあるあるアウターマッスルの力で腕を上げることができる。五十肩は、肩の関節そのものが硬くなってしまう病気。いくらインナーマッスルやアウターマッスルの力が強くても、腕を上げることができない。
腱板断裂では腱の自然修復が期待できないために手術で治療されることがあるのに対して、五十肩では期間は要するものの自然に回復することが期待できるため保存的に治療されやすいという点も大きな違い。
ただし腱板断裂でも関節の硬さを伴う場合がある、腱板断裂でも保存的に治療され軽快する場合がある、五十肩でも治療期間を短縮するための手術を行うことがある、など例外的な状況が起こることも少なくありません。
両者の鑑別は必ずしも簡単ではなく治療に対する反応を継続的に診ていく、MRIなどの精密検査を行うといった対応が必要
腱板断裂はどれくらいの人が、かかる病気なのでしょうか?
40歳代以降の方が肩を痛める疾患として、腱板断裂はありふれたものです。国内のある村で住民の方約700人の肩を超音波で調べたところ、50歳代で12.8%、60歳代で25.6%、70歳代で45.8%の確率で腱板断裂が発見されました。
患者さんの数が多いため、手術を行われる件数が増加しており、日本では年間12000件以上の腱板断裂手術が行われています。腱板断裂の原因は何ですか?
加齢や使い過ぎ、こすれなどが原因で弱った腱板に、けがなど何らかのきっかけが起きて断裂します。きっかけはわずかな事であることも多く、気付かない間に断裂している場合もあります。糖尿病や喫煙、高脂血症が原因となることもあります。利き腕であること、重労働をおこなうこと、激しいスポーツはリスクになる
腱板が弱くなる原因として、段々と腱板の性質が自ら変化するという内因説、骨とのこすれなど外的な要因による外因説あり内因説は、腱板自らが弱くなるとする説
主に、次の原因が 年齢 糖尿病 高脂血症 関節リウマチ 喫煙
加齢によって腱が老化することや、病気・喫煙によって腱の中の細い血管が障害されることなどが、腱板が弱くなる原因
腱板断裂はどんな症状がでますか?
腱板断裂の症状は、主に痛みです。
腕は上がるが、上げ下げの途中が痛い
昼は平気だが、夜になると寝ていても痛くなる
肩だけでなく腕まで痛いことがある
進行すると全く腕が上がらなくなる が特徴の症状
腱板は、インナーマッスルが腕の骨の近くで固い腱となったものです。インナーマッスルの表層には、三角筋や大胸筋という、アウターマッスルがあります。そのため、腱板断裂を起こしてもアウターマッスルの働きで、腕を上げることができます。
ただし、上げる途中で断裂した腱板が周囲の骨にひっかかりを起こしたり、こすれを起こしたりすることで痛みが発生します。目の前くらいの高さに腕を伸ばす時に痛むため、着替えや洗濯物を干す、駐車券のために腕を伸ばすなどの動きがつらくなります腱板断裂が進行し、骨からはがれる範囲が広くなると、腕の抑えがきかなくなり、全く上がらなくなってしまうことがあります。まるで脳梗塞などで麻痺した腕のようになるので、この状態を偽性麻痺と呼びます。
日中はそれほど痛くなくても、夜になるとズキズキ痛むというのも腱板断裂の症状の特徴です。夜になると肩周りの血流が増加する、横になると腕にかかる重力がなくなるため肩に圧迫力がかかる、夜は神経が敏感になり痛みを感じやすい、などがそ
の理由として考えられる。また、腱板断裂を起こした後に長期間が経過していると、それほど強い症状をださずにおさまっている場合もあります。日頃肩への負担をそれほどかけないような生活を送っている方(力仕事の少ない高齢の女性など)は、腱板の一部が断裂しても、周囲の筋肉の働きなどで機能をカバーできるからです。そのような場合でも、肩の打撲や家事作業などちょっとしたきっかけで、断裂が拡大すると、症状が悪化する可能性が高くなります
腱板断裂はどうやって診断するのですか?
腱板断裂の診断は、問診、身体所見、画像検査から行います。問診では痛みが急に強くなったか、きっかけがあったか、夜間痛があるか、身体所見では肩の筋力低下がないか、画像検査は超音波とMRIの所見がポイントとなります。
腱板断裂には、大きく分けて慢性のものと、急性のものがあります。慢性のものは、数年かけて徐々に腱板の損傷が進み、場合によっては知らないうちに断裂してしまっているものをいいます。急性のものは、肩をぶつけるなどはっきりしたきっかけがあることが多く、きっかけがなくとも、ある時期から急に痛くなるものをいいます。慢性と急性で治療方針が異なるため、問診は重要。身体所見では、腕を上げようとする筋力(主に棘上筋)、腕を外に回そうとする筋力(主に棘下筋)、腕を内側に回そうとする筋力(主に肩甲下筋)を診察する
五十肩では基本的に筋力が低下することはありません。腱板断裂と区別する上で、重要な診察です。
画像検査は、レントゲンや超音波、MRI検査を行います。進行した腱板断裂ではレントゲンでも変化がでますが、初期のもの
は超音波やMRIで腱板を直接観察でき診断できる




2025-01-22 05:34:34
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