エピクロスの処方箋 著 夏川草介を読んでみた




「医療では、人は救えないんだよ」 現役医師が描く、人の命と幸福について。
2024年本屋大賞第四位&京都本大賞受賞、映画化決定の感動作 スピノザの診察室 続編、ついに刊行!
「君はここまで来るために、何人の患者を死なせてきた?」思想する医師・雄町哲郎は今日も京都の街をゆく。大人気、哲学エンタメシリーズ待望の第二弾!
【あらすじ】
大学病院で数々の難手術を成功させ、将来を嘱望されながらも、母を亡くし一人になった甥のために地域病院で働く内科医の雄町哲郎。 ある日、哲郎の力量に惚れ込む大学准教授の花垣から、難しい症例が持ち込まれた。
患者は82歳の老人。それは、かつて哲郎が激怒させた大学病院の絶対権力者・飛良泉寅彦教授の父親だったーー。
「エピクロスが主張している快楽の本質は、何よりも『精神の安定』のことなんだ。だから自分は快楽主義者だと言う奴に出会ったら十分に注意することだ。心の平静を求めているのか、ひたすら快楽を求めているのか、こいつは全く別物だよ」
著者からのメッセージ
「幸福」とは何か。本書の主題は、前作『スピノザの診察室』と同じく、この問いの中にあります。
幸福に生きるとはどういうことか。幸福は環境が与えるものなのか、それとも自分の力で生み出すものなのか。幸福と快楽とは何が異なるのか。これらの問いが私の中で年々重みを増しているのは、臨床現場で様々な命の在り方に出会うからかもしれません。無論、容易に答えが出るものではありませんが、思索の旅を少しずつ前へと進めています。古代ギリシャの哲学者エピクロスは、快楽主義の祖と言われる人物ですが、この問いに、実に簡潔な答えを示しました。それは、心に悩みがないことと、肉体に苦痛がないこと。彼が提示したこの素朴な条件に、私はもう一つだけ付け加えます。すなわち「孤独ではないこと」。多様性の名のもとに、人と人とのつながりが断ち切られ、互いに歩み寄ることが難しくなりつつある現代だからこそ、この物語が多くの人の足下を照らす、温かな灯火となることを願っています。――夏川草介
スピノザの診察室に続く第2弾 2023年発売され、その年、一番印象に残った本で・・続編が9月29日出るということで
急いで購入しました。相変わらず、文章がすばらしい。優しい語りかけと情景が浮かぶ言葉、難しい内容をわかりやすく表現しておられ、一気に読み終えました。
今回はマチ先生(作者)の哲学がちりばめられてた作品・・
甥・龍之介とのほのぼのとした会話・花垣や同僚の秋鹿先生(元精神科医の総合内科医)との会話、西島との会話
クライマックスに難病膵石に挑むーマチ先生・花田のスパーコンビでの治療シーン・・最後にマチ先生を慕う真面目で優秀な若い医師・南との恋愛の行方は・・シリーズ化してほしい小説
印象に残った言葉 一部列挙
龍之介との会話
1スピノザのエチカを読んでいた龍之介の難解すぎてわからない・・・
今は意味が解らなくてもある日突然お前の頭の中に戻ってきていろいろなことを教えてくれる こいつはね
難しい本を最後まで読んできたものだけに与えられる特権
本当に複雑なことを理解するには時間が必要なんだ
読んだ瞬間に理解したなら、それはもともとわかっていることを確認しただけだの作業さ
大切な事柄はあとからゆっくりお前の人生に追いついてくる それが難しい本を読むときの面白さだといってもいい
2スピノザから学ぶこと
幸福とは我々が世界から何を感じるかという問題だよ
幸も不幸も突然空からふってくるようなものでない 雑多な物事とともに我々の足元に埋もれていて、私たちが何をみつけるかということじゃないかな
エピクロスとは古代ギリシアの哲学者で快楽こそ至高善だと主張した人物
しかしエピクロスが主張している快楽とは精神の安定であり、平穏で物静かな精神状態を快楽と定義して、これを乱すものは、不愉快なものだけでなく、愉快なものでも遠ざけるべきだと言っている
もちろん彼は一般的な意味での楽しさや、身体的な快楽を否定しているのではなく、ただ楽しいことよりも、苦痛がないことのほうがはるかに大切で、心が落ち着いていることこそが快楽であると・・
幼少期から莫大な本を読んできた作者ならではの言葉か
秋鹿(元精神科医で総合内科医)との会話
多分私は医療というものに対して期待していないんです
医療は無力なもので、大事な時に役に立たない。懸命に生きたいという人の願いに、医療は答えてくれない
世界は理不尽ですよ。努力も祈りも願いも、何一つ未来をかえることはできない
僕は思うんですよ 確かに世の中には、治せない病気が山のようにある。けれども癒せない哀しみはない
信念というほどのものではありませんが、虚無も悲哀もそこら中に転がっていますが、歩く道のりさえ、間違えなければ、人は暗い絶望の淵からでもきっと戻ってこれると思っているのです
花垣との会話
今の医師は知識も豊富にもち、よく勉強しているが、山のような情報を頭に詰め込んでいる代わりに、医師としての基本的な理念が弱くなっているように俺には見える・・・
どうでしょうか 私は知性の問題だと・・
人が自分の権利ばかり口にするのは、自分ひとりで生きていけると思っているからです
でも人生はそんなに甘いものではない 生きていくことの哀しみを知っている人間は、理由などなくても、誰かの力になりたいと思うものですよ
西島(大学病院時代に後輩)との会話
多分私は医療というものに対して根本的に信頼していない
医療技術は進歩に伴って、確かに多くの命が救われてきた。しかしどれほど医療が進歩しても、救えない命は救えない
むしろ救えないものを救えるかのようにふるまう今の医のあり方に釈然としないもを感じている
人を救うのは医療ではなく・・人である・・
すべての人がいずれ必ず死ぬのであると、医師はなんのために患者を診るんだ?
私は自分の家族を看取ったときに、この問いに答えられる医師でありたい
そう簡単に答えはみつからないが・・気づいたことがある
本当に大切なのは、目の前にいる人が今を笑顔で過ごせること・それが第三の道だ
2025-10-02 03:54:06
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