B型肝炎 最新の知見と診療と実践 市立東大阪医療センター消化器内科 副部長 名和 誉敏先生
一部のみ列挙
まとめ
B型肝炎の究極の治療目標はHBs抗原の消失であり、そこまで至ればDrug Freeが可能となる
ウイルスの根治療法が困難であっても、治療によりHBV-DNAの持続を陰性化は実現可能であり、これにより肝細胞がん発症や肝硬変の進展を抑制できる
現行の第一選択薬であるETV:バラクルードTDF:テノゼット ベムルデイはいずれも優れた薬剤であり副作用も低率である
B型肝炎の病態は、再活性化の問題を含め複雑である。抗ウイルス療法の適応などについては今後も検討する必要がある
HBVマーカーの基本
抗体ができる順番は、c→e→s
HBs抗体(中和抗体)までできれば臨床的治癒
成人の急性肝炎例ではHBs抗体までできるが、慢性肝炎・肝硬変が自然経過でそうなる場合は少ない
HBV‐DNA量は肝硬変や肝がんのリスクに相関する
B型肝炎ウイルス(HBV)に対しては,現在大きく2種類の抗ウイルス薬が使われている
1核酸アナログである逆転写酵素阻害剤
2インターフェロン(IFN)
HBVは不完全二重 鎖DNAをゲノムに持つが,核内に入ると完全二重鎖DNAとなり,covalently closed circular DNA (cccDNA)と呼ばれるミニクロモソームの形で安定的に存在する
ウイルスゲノムの複製は,この cccDNAから転写されるウイルスRNA(pregenomic RNA: pgRNA)を鋳型にして,ウイルスの持つ逆転 写酵素活性によってウイルスゲノムDNAが作られることで起きる.
核酸アナログは,pgRNAからの 逆転写による新規のウイルスゲノムDNA産生のステップを抑え,結果としてウイルス複製(新規ウイ ルスDNAの産生)を強力に阻害する
臨床的に使いやすい薬であり,実際に活動性の肝炎が起きている例の多くに処方され,血中ウイルスDNAの消失,肝臓の炎症の抑制,それによる肝硬変への進展 抑制効果を得ている
しかし,その作用機序から分かるようにcccDNA 自体の排除はできず,したがって服薬中断によりウイルスが再び産生される危険があるため,原則的に半一生の継続が必要となる.
また,cccDNAからのウイルスRNA産生やHBs抗原をはじめとした ウイルスタンパク質の産生も抑えることはできない
B型肝炎からの肝発がんは,ウイルス量の低い人の中ではHBs抗原が多い人ほどリスクがあることが知られており,これも核酸アナログでは発がんを完全に抑制できない理由の1つになっている と考えられる.
一方IFNは,抗ウイルス免疫機能を増強するとともに種々の機序でcccDNAを分解するなど,ウ イルスを完全に排除できる可能性を持つ抗ウイルス 作用を発揮する.
しかし,IFNは(理由は不明なものの)限られた人にしか効果がなく,副作用もあるため,ごく限られた患者群にしか使えない.以上の現況から,新しい作用機序を持つ抗ウイルス薬の新規開発が望まれている.
慢性B型肝炎の 完全治癒(complete cure)は,原理的には「cccDNAの排除によって得られるが,技術的にも病態的に も困難なため,いわゆる「functionalcure」として,「HBs抗原の陰性化」を達成することが当面の目標とされている.
主な核酸アナログ製剤
ラミブジン (LAM) ゼフィックス 初めて認可 耐性株のリスク?
アデホビル(ADM) ヘプセラ LAM耐性株例への補助薬
エンテカビル(ETV) バラクード 耐性は少数だが、LAM耐性ではETVにも耐性となる
テノホビルジゾキシフマル (TDF) テノゼット 耐性の報告はない 長期投与で骨密度低下や腎機能障害の報告あり
テノホビル アラフェミドフマル(TAF) ベムルデイ TDFの改良版
ベムルデイの特徴 1日1回1錠服用
1抗ウイルス作用が最も強力
2薬剤耐性ウイルスの報告がない
3透析含めた腎不全にも使用可能
TDF(従来型)は 腸管吸収後すぐに血中でテノホビル(TFV)に分解 血中濃度が高くなり、近位尿細管に高暴露
TAF(ベムルデイ)は腸管から吸収後は血中で安定 肝細胞に取り込まれてから活性型のテノホビルに変換
長期投与データー
1 8年の投与で薬剤耐性は認められなかった
2 有害事象 重篤な副作用はなし eGFRは‐5ml/分程度の低下 加齢に伴う変化程度
骨密度も寛骨、腰椎ともに低下よりも改善または安定した症例が多かった
日本肝臓学会 2022年6月
核酸アナログ製剤の違いによる肝がん発症抑制効果について
現行の核酸アナログの第一選択薬は
第一選択薬 ETV、TDFあるいはTAFの推奨
TDFがETVに比し、より肝がん発症リスクを低減することが示されている
抗ウイルス薬の目標
長期目標 HBs抗原の消失
短期目標 慢性肝炎 肝硬変
ALT 持続正常 持続正常
HBe抗原 陰性 陰性
HBV DNA量
核酸アナログ継続治療群 陰性 陰性
IFN終了例/核酸アナログ中止例 2000IU/ml未満 ―
(3.3LogIU/ml)
再活性化とde novo B型肝炎
HBV感染者において、免疫抑制剤・化学療法などによりHBVが再増殖することをHBV再活性化といい、キャリアからの
再活性化と既往感染者からの再活性化に分類される
HBV再活性化
HBV感染者において、免疫抑制剤・化学療法などによりHBVが再増殖することをHBV再活性化と称する
HBVの再活性化はキャリからの再活性化と既往感染者(HBs抗原陰性、かちHBc抗体またはHBs抗体陽性)
からの再活性化に分類される
HBV再活性化の明確な定量的基準はないが、キャリアでは1log copy/ml以上のHBV DNA上昇
既往感染者ではDNAが検出可能な場合とされっることがある
de novo B型肝炎
既往感染者から再活性化による肝炎は、de novo B型肝炎と称される
de novo B型肝炎は劇症化の頻度が高く、劇症化すると予後は不良である
HBV再活性化の臨床経過
HBV活性化は一般的に
1HBV DNA上昇 2 HBs抗原の陽転化 3 ALTの上昇という経過をたどる
免疫療法・化学療法により発症するB型肝炎対策ガイドライン
スクリーニング 全例 HBs抗原
HBs抗原(+) HBs抗原(‐)
↓ ↓
HBe抗原、HBe抗体 HBc抗体(+)またはHBs抗体(+) HBc抗体(-)またはHBs抗体(-)
HBV DNA定量 ↓ ↓
↓ HBV DNA定量 通常の対応
核酸アナログ投与 ↓
20IU/ml 20IU/ml
1.3log以上 1.3log未満
↓ ↓
核酸アナログ投与 モニタリング
HBV DNA定量 1回/1-3か月
AST/ALT 1回/1-3か月
20IU/ml 1.3log以上 以上
核酸アナログ投与
免疫チェックポイント阻害剤治療中のHBV再活性化の報告が記載され、HBs抗原陽性例に対する核酸アナログ製剤投与が強く推奨された
核酸アナログ中止後の再燃リスク
中止時HBs抗原量
1.9LogIU/ml未満(80IU/ml未満) 低リスク群 中止を考慮してもよい
1.9‐2.9 (80-800IU) 中リスク群 状況によって考慮してもよい
2.9以上 800IU以上 高リスク群 治療継続が望ましい




2025-10-08 04:49:58
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