第31回糖輪会に出席するため、西宮神社会館に行ってきました




この会は久保田稔先生が主催されている会で旧大阪大学内一内科糖尿病グーループを中心に阪神間で開業もしくは病院で働かれている先生たちで構成されている会
私は大阪市で開業していますが・・動物グループでお世話になった久保田先生にいつも読んでいただいています
肝疾患診療の最近の話題 関西労災病院 病院長 竹原徹郎先生
慢性肝疾患に背景の変化
新しい脂肪肝の概念
奈良宣言2023
GDF15の紹介(研究段階)
一部のみ列挙
肝硬変の背景疾患の変遷
HBVウイルス HCVウイルス アルコール性 自己免疫性 胆汁うっ滞型 NASH その他
2007年 13.8% 58.6% 13.7% 2.5% 2.5% 2% 5.6%
2018-2012年 10.9% 27.3% 28.8% 4.5% 6.4% 12.7% 6.2%
脂肪肝の新しい概念
NASHあるいはNAFLDという病名には約40年の歴史があるが,かねてからいくつかの問題が指摘されていた.
最も大きな問題は,「非アル コール性」という定義の問題である.これは男 性でエタノール換算1日30グラム,女性で20 グラム未満の飲酒量を意味する.一方,アルコー ル性肝障害(ALD)の診断基準は一日60グラム 以上の飲酒(5年以上)となっており,NAFLD とALDのそれぞれの定義を満たす飲酒量のあいだにはギャップが存在する.したがって,中等度の飲酒量の脂肪肝患者は診断名をもたないという大きな問題があった.近年,中等度の飲酒 は肝線維化のリスク因子であることが明らかに されており,適切な疾患名をつけることが求められていた.
二つ目の問題は,NAFLDの診断 は除外診断であり,他の肝疾患が否定されなければならないということである.
C型肝炎に脂 肪肝が合併することはよく知られた事実である.また,ウイルス排除後のC型肝炎についても,脂肪肝などの代謝要因がPost-SVR HCC発生 の重要な因子であることが知られている.このように現行のNAFLDの概念だけでは,このよう な病態の取り扱いが難しいという問題があった.
また,日本ではあまり問題になっていないが,欧米では「fatty」という用語がスティグマであり,不適切であるとする根強い意見があっ た.このようなことを背景に,2020年に一部の 研究者たちから,NAFLDの呼称をMAFLD(Meta bolic associated fatty liver disease)と改める旨の発表があった.
MAFLDは,脂肪肝に
1)過体重・肥満
2)2型糖尿病,もしくは痩せ・正常体重で2項目以上の代謝異常
高血圧,内臓脂肪蓄積,耐糖能異常,脂質異常症のいずれかを合併する場合とされる.
これは,メタボリックシンドロームの一つとして脂肪肝を取り上げるものであり,心血管イベント の発症リスクとしては適切なものであるが,肝疾患としての視点が欠落しているという問題点がある. このような混乱した状況のなか,3年にわ たって国際的な議論が重ねられ,2023年6月 13 日本内科学会雑誌に
Steatotic Liver Disease (SLD)
1Metabolic Dysfunction Associated Steatotic Liver Disease (MASLD)
MASH
Non-MASH
2 MetALD (MASLD and Increased alcoholic intake*) 20-50 g/day for female 30-60 g/day for male
3 Alchol Associated /Related Liver Disease (ALD) 50/日以上for female 60/日以上for male
4 Specific setiology
SLD Drug Induced Monogenetic disease miscellaneous
5 Cryptgrnetic SLD
MASLDをはじめとする新たな疾患概念が提出された
その特徴は,SLD(Steatotic Liver Disease(脂肪肝))という包括的なアンブレラ タームのもとに,多くの脂肪肝を整理統合した ことである.そして,個別の疾患としては,従来のNAFLDは概ねMASLD(Metabolic Dysfunc tion-Associated Steatotic Liver Disease)に置き換えられた.
しかし,ここに「少なくとも一つの代謝要因を有すること」という条件が付されたことが重要である.
ここでいう代謝要因 とは
成人の場合
1)人種差を考慮したBMIあ るいは腹囲
2)空腹時血糖100 mg/dl以上,食後2時間血糖140 mg/dl以上,HbA1c 5.7%以上,2型糖尿病の診断あるいは治療のいずれか
3)血圧130/85 mmHg以上あるいは高血圧の治療,
4)中性脂肪150 mg/dl以上あるいは高脂血 症の治療
5)HDLコレステロール40 mg/dl以下あるいは高コレステロール血症の治療
5つの項目のうち1つ以上を有することである.これは要求する代謝要因としては極めて弱い基準であり,従来のNAFLDのほとんどがこの基準をみたし,MASLDとみなせることを意味している.
同時に,従来のNAFLDの概念に欠落していたメタボリックシンドロームを構成する因子の合併にあらためて注意を促したものであり, 臨床的にも重要な視点である.
次に,従前から中等度飲酒者に新たな診断名 MetALDを与えたことである.これにより, NAFLDとALDのギャップが解消されたことになる.
また,specific aetiology SLDのなかには薬物性肝障害(DILI)による脂肪肝,ウイルソン病などの単一遺伝子疾患による脂肪肝,そしてC 型肝炎に伴う脂肪肝などが分類されることになった.そして,全体にわたって,「fatty」に代 わって「steatotic」が使用されたのは,先ほど のスティグマを意識してのことである.また, 重要なこととしてMAFLDのなかには,肝疾患が 進行するタイプとして,従来のNASHがMASH (Metabolic Dysfunction-Associated Steatohepati tis)として位置づけられた.
奈良宣言2023
健康診断など
ALT>30
かかりつけ医
↓ ↓ ↓ ↓
肝炎ウイルス検査陽性 肥満 糖尿病 飲酒量 薬剤性肝障害疑い
脂質異常 高血圧 男性60g/日 自己免疫性肝障害
ウイルス性肝炎疑い 脂質異常症を合併 女性40g/日 (自己免疫性肝炎
または脂肪肝あり かつγGTP異常 原発性胆汁性胆管炎)
↓ ↓ 原因不明
血小板 20万未満 アルコール性肝障害 その他の原因による
FIB‐4 index 1.3以上 肝障害
肝線維化を伴う脂肪肝疑い
↓ ↓ ↓ ↓
専門家へコンサルテーション
MASH 代謝機能障害関連脂肪肝炎
生検像 肝脂肪化 小葉内炎症 肝細胞風船様変化 リンパ球浸潤
脂肪肝の進展
正常の肝臓→MASH→ 肝硬変 肝がん
F1 F2 F3 F4 血小板低下
慢性肝炎から肝硬変へ
肝線維化の評価
FIB‐4Index 年齢 ALT AST 血小板
<1.3 線維化低リスク NFSスコア-1.455未満: →血液検査 線維化評価の経過観察 1-2年毎
1.30 ≦ ≦ 2.66 線維化中リスク -1.455〜0.675: →肝生検Or エラストグラフィーを考慮
>2.66 線維化高リスク 0.675以上→肝生検Or エラストグラフィー推奨
*NFSは、年齢、BMI、糖尿病の有無、AST、ALT、血小板数、アルブミンといった項目から計算されます。
NFSのスコアは以下のように肝線維化の度合いを示します
-1.455未満: 肝線維化の進行リスクが低い状態と考えられ、F0〜F2に該当
-1.455〜0.675: 中間値とされ、線維化が進行している可能性があり、詳しい検査が推奨される
0.675以上: 肝硬変に近い、または肝硬変まで線維化が進行している可能性があり、F3〜F4に該当
日本肝臓病学会 日本糖尿病学会の共同声明
理事長 竹原徹郎 植木浩二郎 簡略に
日本の糖尿病死亡第一位は悪性新生物 全がん罹患のリスクは1.2倍に
臓器別には肝がん 1.97倍 膵がん 1.85倍 大腸がん1.4倍
2001年‐2010年の糖尿病の死因調査では肺がんにつぐ第2位が肝臓がん
近年ウイルス性肝障害を合併しない肝細胞癌が増えてきている
その背景に肥満・糖尿病患者の増加があると考えられる
アルコール性肝障害が一番 肝線維化多い MASLD
FIB‐4 index 1.30 ≦ ≦ 2.66 29% 22%
2.:67以上 14% 1%
肝線維化・脂肪化の評価(FibroScan)
VCTE CAPで評価
肝線維化の評価 MREで
MRエラストグラフィ
MRエラストグラフィ(MRE)は 測定する技術です。 加振装置 生体組織の硬さを 定量的に wave imageを可視化 生体を揺らす生体内に発生した波 同期 弾性率を再構成 硬さを 画像化 MRエラストグラフィの弾性率 =せん断弾性率が対象 硬さを調べると何がわかるか? エラストグラフィで肝臓の硬さを調べることにより
F1 F2 F3 F4
2.61kPa 2.97kPa 3.62kPa 4.69kPa と相関する
脂肪肝から肝がんになりやすい人”を見分ける新指標 ―肝がんの早期発見・早期治療へ期待―
一部のみ列挙
研究成果のポイント
血中GDF15値が高い脂肪肝患者さんは、肝がんになりやすいことを発見。
肝がんの進展において、肝臓に存在する肝星細胞とがん細胞が相互作用している可能性が考えられていたが、その機序として、肝がん細胞が肝星細胞のオートファジーを亢進することによりGDF15(growthdifferentiation factor 15)を分泌させ、肝がん細胞の増殖を促進していることを明らかにした。
BDF15は慢性肝炎 肝硬変 肝がんと高くなっていた
肝がんのBCLCステージ進むごとに高くなっていた
血中GDF15値 1.75 ng/ml以上の高値群では有意に肝がん発症率が増えた Fib-4 index 同様 それ以上に
大阪大学医学部附属病院 熊崎秀祐 医員、 大学院医学系研究科 疋田隼人 講師、 竹原徹郎 教授(消化器内科学)、北海道大学病 院消化器内科、北海道大学大学院医学研究院 消化器内科学、佐賀大学医学部附属病院肝疾 患センター、市立貝塚病院消化器内科、大阪中 央病院消化器内科、大垣市民病院消化器内科ら の研究グループは、血中GDF15値が高い脂肪 肝患者は、その後 肝がんになりやすいことを明らかにした。
FIB‐4index>1.3 1.5%
<1.3 血中GDF15値 1.75 ng/ml 未満 1.8% 1.75 ng/ml以上 16.5%
今回、竹原教授らの研究グループは、血中GDF15値に着目し、脂肪肝患者において血中GDF15値が高ければ、その後肝がんが発生しやすいことを明らかにしました。また、血中GDF15値が高い患者は、その後肝臓が悪くなり腹水や肝性脳症などが出現して入院する可能性が高いこと、予後も悪いことがわ かりました。また、FIB-4 indexによる肝臓の硬さ危険指標低リスク(FIB-4 index<1.3)の患者か らは、ほとんど肝がんなどは発生しませんでした。そこで、血中GDF15値と肝臓の硬さ危険指標中リスク 以上(FIB-4 index>1.3)と組み合わせることで、より効率的に肝がんの発生リスクが高い患者、肝臓が 悪くなる患者、予後が悪い患者を絞り込むことができることを明らかにしました。 これらの結果から、脂肪肝患者の GDF15 値を指標に経過観察や肝がんスクリーニングの頻度を調整するなどの臨床応用が実現すれば、効率的な肝がん早期発見スクリーニング体制の構築につながるので はないかと期待されます。 本研究成果は、米国科学誌「Alimentary Pharmacology & Therapeutics」(オンライン)に、 6月3日(月)に公開されました。
本研究成果が社会に与える影響(本研究成果の意義) 本研究成果により、GDF15 を指標として肝がんや非代償性イベント発生リスク、死亡リスクを見分けることができるようになることが期待されます。さらに今後、臨床応用できればこれらのリスクに応じて定 期的な医療機関での治療や経過観察が必要な脂肪肝の患者さんを絞り込むことができるようになります。 脂肪肝を背景とした肝がんは、未だ進行した状態で見つかることが多いのが現状です。脂肪肝から肝がん になりやすい患者さんを見出し、定期的に肝がんが発生していないか検査を行うことで、肝がんの早期発 見・早期治療が可能となり、予後の改善につながるのではないかと考えています。
NASH治療薬が米国で初承認…海外勢中心に国内でも開発競争 2024/03/25
米国で非アルコール性脂肪肝炎(NASH)治療薬が初めて承認され、続く新薬開発への注目が高まっています。国内でも海外勢を中心に大手製薬企業が臨床試験を進めており、開発競争が激しくなっています。
米FDA(食品医薬品局)は3月14日、米マドリガル・ファーマシューティカルズが開発したNASH治療薬「Rezdiffra」(一般名・resmetirom)を迅速承認しました。FDAがNASH治療薬を承認するのは初めて。対象は肝臓の線維化のステージがF2~F3の患者(ステージはF0=線維化なし~F4=肝硬変の5段階)で、マドリガルは4月に販売を開始する予定です。
NASHは脂肪肝が悪化したもので、肝臓に脂肪が過剰に蓄積することで炎症や線維化が起こる疾患。進行すると肝硬変や肝がんになり、命に関わります。発症に至る原因はまだはっきりとはわかっていませんが、肥満、2型糖尿病、脂質異常症、高血圧症といった生活習慣病との関連が考えられています。
線維化を改善
Rezdiffraは甲状腺ホルモン受容体β(THR-β)作動薬。THR-βは肝細胞に多く発現する甲状腺ホルモン受容体ですが、NASH患者ではその発現が低下することが知られています。RezdiffraはTHR-βの働きを活性化することで肝臓の脂肪代謝を改善し、脂肪の蓄積を減らします。迅速承認の根拠となった臨床第3相(P3)試験では、Rezdiffraを1日1回服用した群はプラセボ群と比べて投与開始52週後にNASHの消失(線維化の進展を伴わない疾患活動性スコアの2ポイント以上の低下を含む)または線維化の改善(疾患活動性スコアの悪化を伴わず肝線維化ステージが1以上改善)が認められた患者の割合が有意に高いことが示されました。
NASHの患者数は肥満人口の増加とともに急増しています。有病者数は日本で200~300万人、世界で数億人とされ、今後も増加するとみられています。一方、治療薬の開発はこれまで失敗続きでした。NASHの病態にはさまざまな因子が関わっているとされ、それゆえに開発の難易度も高く、複数の新薬候補がP3試験まで進みながら有効性を示せず開発中止を余儀なくされてきました。
2025-10-09 06:10:26
| コメント(0)